工場で魅せる。

普通の常識からすると、工場はモノを作る場所だ。魅せる場所ではない。
作るモノにもよるが、音が大きい、暑い、油まみれで汚い。そんなイメージもある。
半導体工場などは、クリーンルームなので、病院より綺麗に感じることもある。
とはいえ、目的はあくまでも決められたモノの量産であり、見られることへの意識は低い。

5年くらい前、そんな常識を打ち破った取り組みに驚愕したことがあった。
中小のものづくり企業、いわゆる町工場を舞台にした工場音楽レーベルに出会ったのだ。
金属を削る大きな加工音を録音し、刃物と金属に滴る切削油の映像を取る。
それらをプロのDJがミキシングして、映像付きの楽曲に仕立てている。クールだ。

バネ、ネジ、歯車、網線捻線の工場などなど。工場の一部が切り取られ、編集されていく。
楽曲になると、いつまでみていても飽きない。バーで流れていたら、お酒が美味しくなる。
それと同時に、日本のものづくりの「やばさ」「凄さ」がヒシヒシと伝わってくる。
様々な装置が出てくるが、スピードと複雑さには感嘆する。チューニングも匠の技だろう。

ふと旭山動物園が頭によぎった。行動展示で有名な動物園だ。動物が持つ本来の能力や行動を見せる。
工場音楽レーベルは、工場や機械の持つ本来の能力や行動を改めて気づかせてくれたと思う。
そして、動物の形態を見るより、動物の持つ本来の能力や行動を見る方が、圧倒的に楽しい。
その動物の世界に少しだけ踏み込めたような感覚が持てるし、深く記憶に刻まれる。

そうだ、もっと工場で魅せることができないだろうか。外から見える工場の外観と周囲の自然。
工場の内部に期待と興味を持たせるデザイン上の工夫。秘密の世界に足を踏み入れる導線。
機械の本来の能力や行動を切り取るデジタル技術とアナログ技術の融合。手を動かす体験。
完成品のモノと共に、余韻に浸る空間、食、宿泊。ものづくりが好きになる空間を作ってみたい。