鳥のさえずり

25年くらい都会の高層ビルで働いていた。とても快適に仕事をしていたと思う。
最初は、ゲートを使った入場管理、セキュリティになんとなく緊張感を感じた。
エレベータの移動するスピードや内部の静かさ、ボタンの押す感触に驚いた。
インテリジェントビルのはしりのようなビルだったんだと思う。なかなかのものだった。

日常の中で、そうした驚きはいつの日かなくなり、他のビルの最先端装備に驚いた。
しばらくすると、共用部のリフォームが行われ、高級感が増し、装備も充実した。
低層階のレストランも充実し、昼休みの食事の時間が楽しみな自分がいた。
視覚からの刺激は最高だった。東京の街並みが一望できる。晴れた日の朝なら富士山も見えた。

言うまでもなく夜景も素晴らしい。高速道路を走る車のテールランプ、ビルの明かりが綺麗だった。
残念だったのは執務室の窓。高層ビルが故に開くことはなく、聴覚・嗅覚は遮断されていた。
確かに業務に集中できて最高の環境だったのだが、どこかでなにかが物足りなかった。
特に、個室で仕事をするようになってからは、とても快適なのだが、違和感があったと思う。

いま、京都では全く異なる環境で仕事をしている。自然に触れる毎日を過ごしている。
鳥のさえずりがどこからともなく聞こえる。それも色々な鳴き声だ。何種類もいると思う。
オフィスまでの道のりは、川のせせらぎや木々のさざめきに溢れている。五感が刺激される。
空間に密閉された感覚は全くない。暑さや寒さも、音も、そのままの形で入ってくる。

この状態を、なんとも贅沢と感じている。25年のオフィスビル生活がそうさせていると思う。
新鮮な刺激があると、人はとても贅沢に感じるのだ。京都での日常を大事にしたいと思う。
ごくたまに、オフィスビルからの景色が懐かしくなる時もある。その場合は東京で堪能している。
色々な場所に身を置く。これも一つの多様性だ。鳥のさえずりを聞きながら妄想に没頭しよう。