ケトバシという「動力が人間」の機械を見た。下の方にペダルがあり、そこを蹴とばすことで金属を加工する。
材料に穴をあけたり、絞ったり、曲げたり、加工に必要な工具をケトバシのテーブルにセットして使う。
職人は微妙な力加減で、これ一台で様々な形状を生み出していく。人間ならではの細やかな加工ができるという。
コンピュータ制御の高価な機械にも負けない精密加工ができる人力プレス機といったところだ。趣がある。
精密な加工ができる理由はなんだろうか。機構はシンプルで分かりやすい。工具を的確につけて、的確に蹴るだけだ。
おそらく、職人は毎日蹴り続ける中で、自分の手足のようになっているんだと思う。最高の状態にメンテしながら使う。
機械の状態や工具の状態も自分でいじる、自分でセットする中で完全に把握している。常に微調整をしながら使う。
加工のメカニズムがしっかりと見えていて、そのメカニズム通りに加工すべく、メンテと使い方を研ぎ澄ます。
最近の装置はコンピュータ制御が当たり前だ。ボタンを押せば、プログラム通りに動いてくれる。力はいらない。
使い方を間違えないように、メンテナンスも簡単に、かつ回数を減らせるように色々な工夫がされている。
確かに、素人でも使えてとても便利だ。でもその一方で、加工のメカニズムはどんどん見えなくなってきた。
機械の調子を肌で感じることはできなくなってきた。とはいえ、ケドバシではできない加工がたくさんできる機械もある。
となると、いいとこ取りがしたい。加工の幅を広げながら、加工のメカニズムも掴める機械。こんな機械が理想だ。
構造は可能な限りシンプルに。それでも沢山の機能を盛り込むので、見え難い部分はARなどで見える化を補完する。
機能は一つ一つに分けて、それぞれを体感できるようにしておきたい。そうすることで、シンプルの足し算にできる。
それをARで再現すれば、複雑な加工でも間違いなく手触りが持てるようになると思う。素人も楽しくなる。
素性の良い機械とは、メカニズムを理解させてくれる機械だ。複雑なものでも、一つずつ別々に体感させてくれる機械だ。
何かをいじると、何か別のところも影響を受けて、なぜその結果が出たかが分からなくなる機械ではない。
機械は部品の組み合わせだが、一つ一つの機械が精度良く作られ、それが組み合わさり、高い精度を実現する。
隙間やガタなど存在しない。ましてや、制御で精度の低さをごまかさない。メカニズムが見える機械は凄いと思う。