自己組織化

イワシの大群や渡鳥の群れが形を変えながら自在に海や空を動き回る姿を見たことがあると思う。
これらは「自己組織化」と言われる現象だ。生物が意思を介さず自発的に秩序を形成するという。
イワシ大群がまるで一つの銀色の生命のように青い海を動き回る姿はとても美しい。
でもイワシ達は、日体大の集団行動のように練習に練習を重ねて、演技しているわけではない。

イワシはどの一匹も何の意図や意思を持たずに、あの美しい形のスムーズな変化を生み出している。
誰かが指揮を取って、形の変化を演出しているわけではない。そんなボスは見当たらない。
いったいどのようにしてこれらの現象が生まれるのだろうか。どうしても偶然とは思えない。
生物の神秘と済ませてしまうのも何か悔しい気がする。理解できたら色々なものに応用できそうだ。

世の中には色々な説明が既にある。3つのシンプルなルールで再現できるという説もある。
①近づくがぶつからない、②向き、速さを合わせる、③群の中心に向かうの3つだ。
これらを無数の物体に持たせたシミュレーションでは見事に形を変えながら進む群ができたという。
ただ、イワシや渡鳥に教え込むことはできない。おそらく意識せずに本能的に感じているのだろう。

人間の世界でも似たようなことは起きている。どこの駅にもある自動改札での人々の様子だ。
通常の自動改札は出口と入口の両方の機能を持っていることが多い。どちらからでも入れる。
出入りの少ない時は、なんとなく空いている近い自動改札を通過していると思う。
でもラッシュ時は、出口専用、入口専用と思えるぐらい勝手に秩序が生まれる。毎日場所もずれる。

恐らく人の迷惑にならないようになど本能的に動くことで改札毎にどちらかの専用が生まれる。
よほど急いでいたとしてもその状況を敢えて壊そうとする人はなかなか現れないと思う。
重要なことは、その場所にいる全員で打ち合わせをして出口専用、入口専用を決めていないことだ。
でも平穏な通勤は共通認識だろう。人々の本能的な協力を社会に生む単純な「何か」を熟知したい。