お面。

昔、お祭りで仮面ライダーのお面を買ったことがある。V3か何かだったと思う。
薄いプラスチックのお面の両耳の辺りにそれぞれ穴があって、白いゴムが通っていた。
お面を顔に当てると、そのゴムが頭の後ろにきて、ピタッと顔にはまる。動いても取れない。
その瞬間、突然強くなる。ただお面を被っただけだが、なぜかライダーの力が乗り移った気がした。

お面は切替スイッチのようなものだ。別の存在へと変わる。暗示を掛けられるのだ。
緑のマスクを被ると、突然陽気すぎる人気者に変身するといった映画もあった。
これはマスクに何かが宿っていて、それが乗り移る感じだったが、お面には力すら感じる。
お面をつければ、自信が持てる。リミッターを外して素直な自分を表現することができる。

最近、伎楽という伝統芸能に出会った。仮面を使用する無言野外劇で中国から伝来した。
すっぽり被れる大型のお面で、目鼻口の穴から外がしっかりと見える作りのようだ。
種類は14種類あるらしいが、人の面が多く、異国の香りが漂う。アーリア人型というらしい。
聖徳太子の時代に盛んだったが、後から伝来した別の舞に押され、平安時代あたりから衰退した。

伎楽はブームのようなものだったかもしれないが、当時熱狂した人が多かったのだろう。
風刺性の強い演技で、滑稽な様があったり、それを戒めたり。「なりきる」体験ができたのだ。
役に没頭することで、自分を解放する爽快感があったのかもしれない。想像すると面白い。
ぜひ、一度伎楽のお面を被って、街を歩いてみたくなった。高揚感や浮遊感が味わえると思う。

今の世の中、メタバースがある。そこではアバターが活躍する。性別や年齢も超越する。
既に複数の人生を楽しむ人すら出てきている。顔を隠すお面ではなく、全てを覆い隠す。
でも本質はお面だ。デジタル技術が「なりきる」体験を増幅し、時間すら超越できる。
人の脳に複数のモードを生むスイッチ。どこまで人間は多様で複雑になりたいのだろうか。